最長片道切符の旅_扉絵
第20日旅程表






















    





宮脇さんの本で長片道切符の旅を追体験します。
最長片道第20日旅程図



            第二〇日旅程図→



改行がずれている場合等ありますがご容赦ください。また引用については、空白二行入る場合は、途中を略していること、一行入る場合は本編の記述に沿ったものになります。



旅第二〇日より、その2



作品200-201p----------
 有田川のミカン山はいまが最盛期で、遠くから見ると山肌に魚の
腹子をまぶしたように見える。そんななかに「かとりせんこう」の
看板が立っている。そういえばこの付近は除虫菊の産地であった。
 ミカン畑に石油タンクが混在しはじめると紀州路は終り、16時
27分、和歌山に着いた。


 「奈良までの急行券。和歌山線経由で」
  と私は言った。窓口氏は怪訝そうに私を見てから、
 「天王寺回りのほうが早く着きますよ」
  と言う。親切な教示で、そのほうが17時16分発の急行「し
らはま3号」で行くより五一分も早く着くし、急行券もいらない。
しかし最長片道切符のルートは和歌山線で紀ノ川沿いに五条を通っ
て高田、さらに桜井線で回り道をして奈良に達するようになってい
る。そういうまわりくどいルートなのだが、「しらはま3号」京都
行はなぜかそのルートを走るようになっている。まるで私のために
運転してくれているような急行である。
 有難い列車であるが、時間がかかるので奈良や京都まで通して乗
る人はいない。
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 このころは「しらはま3号」のようなDC急行が各地に走ってました。連結、分割が容易で編成も融通が利くので、複数の列車を合わせたような経路を持っている列車。別記事でとりあげた中国地方の急行、いつかは取り上げる予定の東北地方の急行にもあります。始発から終点まで最短距離でいかず、いろいろ回り道をして走る列車は乗鉄には絶好の対象なんです。


作品201p------------------------------------------------
 雨が降り出していて、窓に水滴が斜めに流れる。外は暗くて見えな
いし、退屈で、こんな列車で意味のない遠回りをしているのが空しい
気がする。鞄のポケット・ウイスキーをのむと、空き腹だったので回
ってきた。人恋しくなって通りがかった中年の車掌を呼びとめた。
 「車掌さん、どこかで会いましたね」
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 旅慣れた宮脇さんでも、旅慣れているからか寂しくなると誰かと話したくなるようです。旅先で話しかけられたら、つい話し込んでしまうことは私もよくあります。自分から話しかけることはめったにないのですが。長旅の中では何度かこういう気分になることはあります。ただ、お気に入りの路線、良い車窓に出会えれば、一発で気分が上がっていくはずです、乗鉄ですから。


作品202p--------------------------------------
 雨に濡れた近鉄吉野線のレールが構内灯に照らされて寄り添い、
吉野口をゆっくり通過する。
 ホームの小さな待合室のなかに五、六人の客が雨を避けて籠の鳥
のように固まっている。
 高田で進行方向を変え、桜井、天理に停車して19時20分、奈
良着。向いのホームの19時21分発の湊町行快速電車に乗移る。
 促成栽培用の照明灯をともしたビニールハウスの間を走り、王寺
からノン・ストップになって天王寺着19時54分、こんどは大阪
環状線外回りの国電に乗る。きょうの日程はこの線の京橋までである。
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 このあたりテンションが下がったままの感じで、和歌山県から奈良、大阪と移動していきます。この日の後半は、宮脇さんの精神を刺激するものになかなか出会えない旅程となっています。私は、長い旅路の間にはそういう日も当然あることを思い出しました。毎日毎日を面白く楽しく旅をしているわけではない。それでも終わってしまうと、全ての鉄路が懐かしくなる。なぜだろう、答えは分かってます。


つづく