最長片道切符の旅_扉絵

第21日旅程表






















    





宮脇さんの本で長片道切符の旅を追体験します。最長片道第21日旅程図


           

 第二一日旅程図→





改行がずれている場合等ありますがご容赦ください。また引用については、空白二行入る場合は、途中を略していること、一行入る場合は本編の記述に沿ったものになります。




旅第二一日より、その1



作品203p----------
 この五日間、東海から会津、信州、木曽谷、紀伊半島と目まぐる
しく回って印象が混乱している。そこへきて、大阪という雑然とし
た都市の、中心とも場末ともつかない所にある、建物は立派だが部
屋に入るとカビ臭い中途半端なビジネスホテルに泊ったのだから、
ますますすっきりしない。汽車に乗っているあいだはいいのだが、
宿に入ると、いったい自分は毎日何をしておるのか、という自嘲が
頭をもたげてくる。
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 日程と旅の情景との兼ね合いが悪く、精神的に落ち込むこともよくあります。乗鉄とかしていると、24時間気楽でハッピーと思われがちですが、どんな趣味でも高揚もあれば停滞もあり、下手すると趣味そのものを放擲することだってあります。このあたりの宮脇さんも危ないのですが、「汽車」に乗っているあいだはいい、というところでまだ最悪ではないのが分かります。それで電車ではなく汽車なのも大事。自分が汽車と思える列車に乗ることが大切です。そうなんです。


作品205p--------------------------------------------------------
 京橋から二つ目に「放出」という駅がある。私などの世代はこの
文字を見ると敗戦時の占領軍放出物資を思い出すが、これはハナテ
ンと訓む。大阪の人なら誰でも知っている町工場の密集地である。


 木津着8時14分。古びたホームに降りると同時に、8時15分発
亀山行の関西本線の鈍行がディーゼルカー四両で入ってくる。お互い
に正確な定時運転である。それにしても、四人掛けの車両は一両だけ
で、あとは国電型のロングシートとは味気ない。
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 本日の目的地は飛騨の高山なので、それを糧に頑張って行こうというところなのですが、大阪の国電区間に、ロングシート主体の車両では「汽車旅」として心が納得できないようで、このあたりまで、まだまだ本調子ではない宮脇さんです。


作品206p------------------------------------------------------------
 ディーゼルカーは木津川に沿って紅葉の終りかけた笠置の山峡を走
り、古い鉄橋を渡る。石積みの高い橋脚の上に丸いアーチが三つ乗っ
ている。こんな旧式な鉄橋は幹線ならとっくにつけ替えられているに
ちがいない。


  9時30分、伊賀山中の静寂な分岐駅柘植に着く。「芭蕉翁誕生地」
の碑が駅前に立っている。芭蕉は忍者であったという説があるが、山
間の柘植駅に降り立ってみると、それを信じたい気持になってくる。
空が暗く曇ってきた。
 反対側から長い編成の急行が登ってくる。前五両は奈良行の「かす
が1号」、うしろ三両が草津線経由京都行の「平安」である。奈良行
はガラガラ、私がこれから乗る京都行のほうが客が多いが、それでも
四分の一ぐらいの乗車率であった。
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 関西本線は木津から先ローカル線であり、有名な加太越えをとおらないためか、淡々と旅を続けて行く印象です。目標の高山もあちらこちらと回り道なので、一直線というわけにいかず、テンションが上がらない状況かと思います。ちなみに乗鉄としては笠置あたりの渓谷はそれなりに見応えあると思います。列車のドアの足下のガラスから見下ろして走って行く、という車窓は記憶に残っています。


作品207p-----------------------------------------------------------
 車掌が検札に来た。小柄で頼がさけ、苦味ばしった一見忍者風の車
掌なので、おやと思う。私の切符を手にとると裏返して経由地を指で
丹念にたどり、「柘植 山科」の文字で納得したのか小さく肯くと無
雑作に検札のパンチを入れた。見ると私の大事な切符の右肩に一ミリ
ぐらいの穴があいている。これまでどの車掌も穴などあけなかったし、
感心したり呆れたりしながら切符を私に返したのだが、この車掌は穴
をあけたうえに口もきかない。
 名神高速道路と新幹線の下をくぐり、草津で東海道本線に合流する。
雲が切れ、薄日がさしてきた。琵琶湖の方向に見事な虹がかかってい
る。10時43分、京都着。
 京都からは10時52分発の特急「白鳥」に乗る。青森まで行く長
距離の列車であるが、私はつぎの停車駅敦賀で下車することになって
いる。
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 最長切符は、その人にとって記念切符のようなもので、それは大抵の人は感覚的に分かると思うのですが、職務に忠実なあまり自分の仕事だけを遂行すれば良い、という人も世の中にはいますね。この車掌さんは悪人でも何でもなく、そういう人なんでしょう。宮脇さんは、この車掌の行動だけ描写してこの場面を終えています。ご自分の感情、考えをのべることなく、そんなところにもこの作品の特徴があります。良き旅になりますようにと祈りたくなります。


つづく